新建 文本文档_89
ascxscz
へいいはぼう)の十番隊隊長、斎藤勘次郎(さいとう かんじろう)が狼たちを眺めていたと思うと、
「あれだけの数の狼たちです。昼型(デイタイム)一体の身体など腹の足しにもなりますまい。」
その言葉に陸奥も頷きます。

 「お主たちは風媒花というものを知っているか?」
大久保翁がそう問いますが、陸奥も斎藤も首をかしげました。
「風の力で受粉する植物じゃ。虫の力で受粉する植物は虫媒花と呼ぶ。虫たちは花の蜜に誘われて来るだけで、受粉を手伝っているという自覚はないじゃろうがな。」
大久保翁は言葉を続けますが、両名ともにまるで納得いっていない様子で、
「ジジイ、何が言いたい?」
「フン。なぜここにゾンビの群れが集結しようとしているのかまだわからぬか?」
「わかるように説明してくれ。」

 ここで大久保翁は少し間をとって、

「ニオは雌花、ゾンビは雄花じゃ。やつらは繁殖の時期を迎えておる。受粉して大量のゾンビを生み出アンティーク オメガ
アンティーク 時計 店
アンティーク 腕時計
すつもりじゃ。この地の動物たちは本能でそれを察知しておる。餌が尽いいれば動物たちも全滅。そうならぬよう受粉を手伝おうとしておるのじゃ。にわかには信じられん話じゃがな。わしがまだ二十八部衆として知床の首都にいたときの話じゃ。勝(かつ)という科学者がおってな、それがそのような仮説をたてておった。当時は馬鹿にしておったが、どうやら真実だったようじゃな。」

 陸奥も斎藤も絶句して顔を見合わせておりました。

 大久保翁はニヤリとして、
「獣媒花???というところかの???」


 申し訳ありま

N3437BM-56
ascxscz
*3話連続で更新しております。ご注意ください。
********************************************
21:貝殻

プバハージ王宮の客用寝室にて目を覚ました僕は、隣で眠るベルルをまず見た。

「……」

しかし、のんびりしている暇は無い。
起き上がると、まとめられていた荷物の中から空中伝書の腕輪を探し、身につける。昨日の商売の話を、レッドバルト伯爵にしておいた方が良いと思った。
内容を手短にまとめ、転送。外国なので少々伝書の到着が遅くなりそうだが、一応一安心。

「……ん……旦那様、おはよう」

「ベルル……起こしてしまったかい?」

「んーん、違うわ。目が覚めちゃったの」

彼女も目を覚まし、ひょこっと起き上がって、背伸びをした。
mizuno ソフトテニス
mizuno ミズノ
mizuno ランニング履物

「ねえ旦那様、今日はどうするの?」

「今日は、そうだね。ホテルに戻る前に少し海辺を散歩しないかい? この時間なら人も少ないだろうし」

「まあ素敵!! きっととっても気持ちが良いわね」

「午後からは、名所を巡ろう。……この島には観光地として有名な遺跡が多いんだって。興味があるかい?」

「遺跡? わああ、物語の冒険の様ね。勿論だわ」

ベルルは手のひらをパンと合わせ、微笑む。
いそいそと、ベッドの端に座る僕に近寄り、隣にちょこんと座って服の端を掴んだ。

伏し目がちに足をぶらぶらとさせる。
何も言って来ないが、甘えたがっているのが分かり、僕は嬉しく思った。

「なんだいベルル」

「……もう、旦那様ったら分かってるくせに」

ベルルはムッとして、頬を赤らめる。
僕はとぼけて「なんだい?」と聞き返す。

するとベルルは僕を見上げ、少し戸惑いがちに言うのだ。

「ねえ、旦那様……ぎゅってして? 昨日はあまりしてもらってないわ」

あまりの可愛らしさに昇天しかけたが「いいとも」と冷静に頷くと、彼女を抱き締める。
確かに昨日は色々と慌ただしく、新婚旅行と言うのにこういうまったりとした時間は取れなかったからな。

しばらくそんな風にしていたが、ベルルがもぞもぞと動き、ベッドの上で膝立ちをして、僕を見下ろす。

「……?」

彼女はそのまま僕にキスをして、首に抱きついた。
多分恥ずかしいので顔を隠しているのだろうけれど。

「あ、ありがとう旦那様」

「何がだい?」

「ここに連れてきてくれたでしょう? 私、とても楽しいの。旦那様と一緒に、こんな風に何日もお出かけする事って無かったでしょう?」

「……まだまだこれからだよ」

僕はベルルの細い腰に手を当て、彼女をゆっくり引き離した。
じっと表情を見つめ、微笑む。

彼女は何度も頷いた。とても可愛らしい笑顔で。







王宮を出る前にユハン前王に朝食に誘われたので、一緒に頂いた。

そのとき、プバハージ島にある伝説の話を聞いた。
パンフレットにも書いていた話だが、大昔ここら辺には金色のドラゴンが住んでいたとか居ないとか。
プバハージ島の中心にそびえ立つ、この国のシンボルとも言える大きなプアムノ山の山頂に、度々金色の帯の様なものが現れ、古代の人々はそれを信仰していたとか。
プアムノ山のふもとには、そのドラゴンを祭る神殿遺跡があるそうで、今ではもっぱら観光地となっている。

ユハン前王に、この国に滞在中また王宮を訪ねて欲しいと言われた。
流石に一国の前王の頼みとあれば、喜んでそうさせて頂く他無い。

ありがたくも前王と空中伝書の番号を交換させて頂き、また我が家の日焼け止めのサンプルを渡した。





「旦那様、早く早くっ」

ベルルは薄手のワンピースを着て、砂浜を駆ける。
前王に浜を散歩すると言ったら、プライベートビーチを散歩して良いと言われたので、美しく整えられた、誰もいない浜辺にやって来たのだ。そこからは、例のプアムノ山も見える。

昨日の宴の席での事を思い出しつつ、目の前ではしゃぐベルルの様子を見つめる。
子犬姿のマルさんや子鹿姿のサンドリアさんもこちらに現れ、砂浜を掘ったり波際で水を蹴ったりしていた。

「小僧、何をぼんやりしておる」

突然、肩辺りから声が聞こえた。ローク様だ。小さなトカゲ姿のくせに偉そうに僕に問う。

「ええ。色々と、目まぐるしいなと思って」

「あの老いた前王の言っていた事か? お前の薬を買ってくれると言うなら、良い話だと思うが?」

「ええ、勿論ありがたいお話です。ただ、こう言う事に慣れていないので」

グラシス家としての魔法薬の商売関係で、報われる事の無かった僕である。
ほとんどの取引先をヴェローナ家に奪われ、一族の名は地に落ちた。

今回舞い込んできた話は、上手く行くだろうか。僕に出来るだろうか。
一日経つとそんな気持ちが定期的に溢れてくるが、その度にベルルの言葉がよぎる。

『旦那様のお薬が、海外で沢山の人を助けるのね』

彼女の言葉が全てだ。
とにかく、頑張ってみようと思える。

「何だか嬉しいのか嬉しく無いのか、良く分からない表情をしているな」

「……そこなんですよ。嬉しいのですが、調子に乗るのも良く無いなと思いまして」

「苦労したんだなお前も。同情するよ」

「……」

ローク様に同情されるとは相当だ。
僕は両頬を叩いて、しっかりする様、自分に言い聞かせる。

「あ、そう言えばローク様、知っていますか? この島には、金色のドラゴンの伝説があるらしいのです。ローク様も黒いドラゴンだし、金色のドラゴンって知っていますか? 多分、魔獣の事ですよね」

「……金色のドラゴン?」

ローク様はピクリと反応したが、その頭を少し垂らし、何やら考え込んでいる。
紅いつぶらな瞳を煌めかせ。

「黄金のドラゴンと言えば、そう言う魔獣も居ったかもしれん」

「……?」

彼女はそれだけ言うと、両肩を行ったり来たり、ちょろちょろとした後サンドリアさんを呼びつけた。
サンドリアさんは僕の足下まですぐにやってくる。

「私を背中にお乗せ」

「あ、はいローク姉様」

姉に従順な子鹿だ。僕に対するのとは全く違う態度。若干足がプルプルと震えていたが、これはいつもの事か。
ローク様は、サンドリアさんに「海へお行き」と命令していた。


「旦那様、見て、とっても綺麗な貝殻よ」

ベルルがタタッとやってきて、僕に半透明の桃色の貝殻を見せた。
小さく、丸く、きらきらと輝く美しい貝殻だ。

「確かローズ・シェルって言うんだよ。とても硬いから、欠けたりしないで美しい形で見つかる事が多いんだって。凄いな、珍しい貝殻を拾ったな」

僕はベルルが持って来たその貝殻を摘んで、掲げてみた。

「確か、二枚あると夫婦円満のお守りになるんじゃなかったか?」

「本当!!?」

「ああ。でも、なかなか二枚目は見つからないんじゃないかな」

僕がそう言い終わる前に、ベルルは既に砂浜の広い所へ向かい、ローズ・シェルを探していた。

またまたこの国のパンフレットに書いていた事の受け売りだが、確かプバハージの浜で見つける事の出来るローズ・シェルは、その美しさと硬さから装飾品として用いられる事もある。土産として、人気が高いとか。

「あった!!」

「え」

しかしあっさり見つけたベルル。
彼女はまた僕の元に駆け寄ってきて、それを見せた。

「旦那様、見つけたわ!!」

「ああ、本当だね。凄いねベルルは」

「ふふっ。二枚目の方が、少し大きいの。……これ、旦那様にあげるわ」

彼女は僕の手を持って、そのローズ・シェルを手の平に載せた。

「いいのか? せっかく見つけたのに」

「だって“ふうふえんまん”のお守りなんでしょう? だったら、旦那様が持っていないとダメじゃない。大きいのを旦那様が持っていて、小さいのを私が持っているの」

ベルルは“ふうふえんまん”の所だけゆっくりと言って、彼女なりの理屈を唱えた。
なるほどそういうものなのか……。

「分かったよ。ありがたく貰っておこう」

「お守りよ? 私たち、ずっと仲良くするのよ? “ふうふえんまん”よ?」

「はは、分かっているよ」

「ずっとずっとよ?」

「ああ、勿論だ」

ベルルの頭を撫で、頬に手を当てる。
彼女は僕の手の上に、その小さな手で重ねた。

そして、上目使いで困った様に眉を八の字にして言う。

「私の事、嫌いになっちゃダメよ」

「なるものか。はは、そんな心配をしているのか? あはは、なぜ? あははは」

なぜか笑いが出てきた。
ベルルがそんな心配をしているなんて、今まで無かったから。

逆に言いたい。ついでに僕の事も嫌いになったりしないでくれと。

僕はベルルに貰ったローズ・シェルを胸ポケットに収めた。
ベルルは小さな貝殻を、ロケットペンダントの中に入れていた。ロケットの膨らみに、ちょうど良く収まっている。なるほどな。

「ベルル様見て、これ捕まえたの」

子犬姿のマルさんが、尻尾をふりふり口に何かをくわえてやってきた。
ヤドカリだ。

「まあ、マルちゃんったら凄いわね。でも、ちゃんと海に帰すのよ?」

「分かっているわ」

マルさんはベルルに見せて満足したのか、再び海へ向かって行った。



僕らは誰もいない海岸線をずっと歩いて、朝の散歩を楽しんだ。
その後、ホテルで着替え、昼食をとった後、プバハージ島の噂の神殿遺跡へ向かったのだった。


N4527BC-96
ascxscz
Sense96

 とある日の午後。俺は、アトリエールを出て、表通りへと向かう。
 腕の中には、ザクロが収まりまったりと目を細めて二本の艶やかな尻尾を揺らし、リゥイが俺の歩幅に合わせて付き従ってくれる。
 通りには、狩りの準備のためのパーティーや露天で交渉するプレイヤー。プレイヤーに混じり活動するNPCが町を彩っている。
 そんな中、俺はリーリーの木工店へと足を踏み入れる。

「こんにちは」
「ユン様、ようこそいらっしゃいませ。既にお三方は、裏で待っておられます」
「ありがとうございます」

 店番をしていたNPCに案内され、以前、長弓の試射をした中庭へとやってきた。今日は、日の当たる中庭の真ん中にテーブルと椅子が四脚。
 さらに、テーブルには真っ白なクロスが引かれ、更に磁器のティーセットとホールケーキが用意されていた。
 先に待ってきた顔見知りの三人は、こちらに気が付くと気軽に挨拶をしてくる。

「こんにちは、遅れてすみません」
「いやいや、ユンくん。まだ時間じゃないから問題ないよ」

 そう言って、切り分けられたケーキを口に運ぶマギさん。その膝には、彼女のパートナーのリクールが大きな欠伸をしている。相変わらず、柔らかそうな毛を何気なく触っているマギmiumiu バッグ
miu miu 財布
シャネル 財布
さんが羨ましい。って、うわっ! リゥイ。ごめん、ごめん。お前の毛並みもサラサラで好きだから!
 俺の心を察知したリゥイは、その僅かに生えた角で突こうとする。決して当てないが、脅しとして使うそれは十分に危ない。
 俺の姿を見て、三人が苦笑するので、俺も苦笑で返す。

「じゃあ、時間だ。始めようか」

 俺がテーブル席に着くと、クロードが音頭を取り始める。
 この場は、何の場かと言えば、親しい別の分野の生産職が互いの近状報告をする一種の『発表会』のような場だ。
 とは言え、普段町に引き篭もり生産に没頭しているような者達の気分転換の意味合いもあるだろう。始まったのは、夏休みの終わった九月で今回が三回目。
 互いに技術の全てを曝け出す訳ではないが、互いに知っていて問題ない程度の話を話し合う場所だ。

「まずは誰から話す?」
「じゃあ、僕からでいいかな」

 そう手を上げるリーリー。肩には美しい不死鳥のネシアスを乗せている。

「僕の発表はこれかな?」

 そう取り出すのは、一本の杖。木工職人の定番である魔法使いの装備。不要なものを全て削ぎ落とされた。いや、付け加える前のデザイン前の杖は、まさに何の変哲も無い杖。

「これは、新しく見つけたモンスターのドロップで作ったんだ。ユンっちお願い」

 俺へと渡された杖は、トレントウッドの杖という名前。察するに、トレントという植物モンスターのドロップだろう。
 なぜ、この杖が俺に渡されたかといえば、性能実験のためだ。

「了解。【物質付加】――インテリジェンス」

 武器に追加効果が一つ増えた。最初は、木工師の技能によって付与されたボーナス、次に俺の付加。俺は、更にそのまま、もう一つMINDの付加を施す。

「これで三つ目。次で【物質付加】――スピード。……よし」

 四つ目の追加効果には……耐えた。その後、更に付加を重ねた五つ目の追加効果には、杖が耐えられずに自壊。
 この実験は、いくつまで追加効果を掛けられるか、という実験。結果は、トレントウッド製は、四つまで施すことが出来る。と言うことだ。
 武器や防具、装飾品の追加効果は、作成時に決定し、その後に施すのは、どうしても強化素材による強化になる。そうなると、性能実験の度に貴重な強化素材を無駄にすることになるが俺の【付加術】による【物質付加】でノーリスクで追加効果を発生させられる。
 こうやって、追加効果の限界、加工時の能力の限界、耐久など時間や資源を節約できる検証は率先して手伝っている。
 
「四個か……木工だと一番多い素材だね。でも、レアとは行かないけど少数ドロップだから数が……ユンっち、実験の協力ありがとう」
「こっちも実験のデータや情報を見せて貰っているし、持ちつ持たれつだ」

 そう、この場は、持ちつ持たれつの生産職の意見交換の場。互いに必要な物を補ったりして、助け合っている面もある。
 二、三言葉を交わし、まだ性能を十分に検証できていないために主武装である【黒乙女の長弓】のランクアップは見送りとなった。

「じゃあ、次は、俺の番で良いか?」
「おっ? ユンくんやる気だね。良い物でも見つけた?」
「まぁ、そんな所です」

 マギさんからの軽いからかいも流す。前回と前々回は、場の決め事や小ネタ、生産職向けの狩場を話し合った程度でリーリーのような上のランクの素材を見つけた。とかは無かったが、今回は、偶然にも用意できた。

「とは言え、俺は発表じゃなくて、素材の持込ですね。マギさんにはこれで何かを作って貰えればと思います」

 取り出したのは、ブルライト鉱石と蒼鉄鋼(ブルライト)のインゴットそして、黒鉄のインゴット。数としては、それほど多くは無いが、試作するには十分な量だろう。
 楽しそうにお茶を飲んでいたマギさんが、取り出された蒼色の掛かった金属を見て、鋭い猫のような真剣味を帯びる。

「これはこれは。ユンくんは、どこで手に入れたのかな?」
「知り合いに色んなエリアに行くついでに鉱石収集を頼んだ中に入ってた。場所は、北の山沿いで見つけた。って言ったから俺が直接出向いて量を確保して、インゴットにしてみた」
「ユンくんは、もう装飾品にしたの?」
「いや、黒鉄はしたがブルライトは……俺のレベルが足りないのか、炉の温度が足りないのかで、インゴットより先への加工が出来なくて……」
「ふーむ。よし、お姉さんが引き受けるとしますか。武器と防具と装飾品の検証か。これは、経験値的に美味しいかもね。出来たらユンくんには、性能実験の一部に付き合って貰いたいから都合の付く時に言って、それまでに仕上げるから」
「よろしくお願いします」

 マギさんに、鉱石とインゴットを譲渡して俺の報告は終わる。
 短い報告だが、ケーキを食べ、お茶で喉を潤わしつつ進む時間は、意外と進むのが遅かったりする。
 テーブル下の日陰では、クツシタが虎の敷物よろしく。でうつ伏せで寝転がり、時折、右へ、左へとそのままの上体で体を転がし、捻り、また眠る。

「じゃあ、次はマギか?」
「私か~。今日はネタが無いんだよね~。でも、その代わり、ユンくんが婚約したって噂を仕入れたよ」

 先ほどまでの鋭さは抜け落ち、にしし、と意地の悪い猫のような笑いと話の内容に、口の中に含んだ紅茶で咽返り、口より零れた液体がデータの海の中に消えていく。

「あーあー、ごめんごめん。そんなに驚くとは思わなくて」
「げほっ、こほっ……いえ、誰が」
「嫉妬狂いの男ども」

 いや、そんな楽しそうな笑みを浮かべていう言葉じゃないと思いますよ。

「ああ、ボクもユンっちの噂聞いたよ。確か、人前でプレゼントしたんだよね。婚約指輪」
「いや、リーリー。あれは違うぞ! 確かに人前だがそうじゃなくてだな!」
「ふむ……ウェディング・ドレスは必要か?」
「いらん! 無用な気遣いだし、ドレスなんて一生無縁だ!」
「なに? とするとユンがタキシードでタクがドレスか!」

 俺は正しいけど、タクは正しくない! 見たくないぞ、そんな幼馴染の成れの果て!

「まぁ、冗談はこれくらいにして……」
「マギさん、冗談っていくらなんでも酷くないですか?」

 もう、俺は半分涙目ですよ。

「タクくんから直接事情は聞いてるから安心して、でもまぁ、行動に問題が無いわけじゃないけどね」

 まるで諭すような落ち着いた口調に妙に緊張感が走る。抱きかかえるザクロに力が入ってしまったのか、緊張が腕の中のザクロにも伝わる。対して、語るマギさんは良い脱力感を持ち、リクールを撫で付けている。

「何ですか? 問題って」
「うーん。好きな人にアクセサリーとか送るには良くあるだろうけど……あんまり遣り過ぎないでね」

 怒っている様子は無い、ただ小さい子どもに語りかけるような言い方に眉を顰める。

「これは、簡単な例なんだけど、生産職とプレイヤーの関係って、結構アレなんだよね。言葉では言い表しにくいな」
「利用する関係」
「おお、クロード。そうそう、それで私たちが面倒を巻き込まれないためにも、ちゃんとした対価を要求しなきゃいけない」
「……対価」
「まぁ、お金のことね。正しい労力に見合う対等な関係。でもね」

 この時点で何を言いたいかが、分かってしまった。だが、俺のした失態の事を最後まで静かに耳を傾ける。

「それが崩れたらどう? ユンくんにとって親しい人に渡すのは普通だと思うけど、出会ってすぐの人に安く引き受けるのは、止めたほうが良いよ。
 第三者から見れば、あいつは良くて、なぜ俺は。どうして贔屓するんだ。あいつは何もしていないのに、気に入られている。他人にはそんな風にしか映らない」
「つまりは、迂闊に安く引き受けて、その後も同じように自分に不利益しか被らなくなる。一度目は良くても、二度三度と続けば苦痛だろ。人によっては、お前に不利益なことを強要することもある。価格破壊は、周囲への摩擦も生みかねない。それこそ、お前の店の様に、制限を設けることをしないと、最終的には、ユン。おまえは雁字搦めになるぞ」

 二人の厳しい意見。俺は黙って聞いていた。
 
「……すみません。自分が短慮でした」

 素直に頭を下げる。頭上では、安心したような短い息を吐き出す声が聞こえ、場の雰囲気が随分和らぐ。

「それにしてもユンくんは、お姉さんに挑戦状を叩きつけるようになるとは思わなかったな。これは、装飾品マイスターとしての意地とプライドをかけた勝負をしなければ」
「あっ、いえ。そんなつもりは」
「でも誇って良いよ、ユンくん。私を本気にさせたんだからね。この譲り受けた鉱石を使って、君の造った物を遥か先へと私は行くよ」
「あはははっ、お手柔らかに」

 場を和ませるためのジョークなのだろう。本音も混じっているだろう。目が若干本気の色を帯びている。

「はぁ~、気をつけます」
「うんうん。素直なのはいい事ね」

 そう満足そうに頷くマギさん。しかし、さてと――と一呼吸を置く。

「ユンくん?」

 俺も話はもう終わったとばかりに、ケーキを口に含み、その甘味に目を細めている。今日は、季節のフルーツを使ったフルーツタルト。これはクロードの店【コムネスティ喫茶洋服点】のケーキ担当フィオルさんが用意した品だろう。
 不遇とされる【料理】センスでここまでレベルが高いお菓子職人で知り合いは、彼女しか居ない。

「……んっ、何ですか?」

 ケーキを紅茶で流し込み、一呼吸付いたところで聞き返す。

「ユンくんは、まだ強化素材持ってる?」

 この瞬間、場に別の緊張感が走る。クロードとリーリーは表情を変えず、しかし視線だけは俺を射抜いている。
 無言の駆け引きが目の前で応酬され、俺はただその中では一匹の獲物に過ぎない。
 三人の目は、まさに猛禽類のそれだ。
 恐怖に震えながらも、何とか言葉を搾り出す。

「え、えっと……」
「クイーンからの強化素材【女王針蜂の翅】は、まだ使ってないでしょ? 何に使うのかな? って」
「あははははっ……」

 今はとにかく笑って誤魔化す。マギさんなら包丁の強化。リーリーなら長弓の強化。クロードなら防具の強化。それぞれにメリットがあるのだが、とにかく顔が怖い。
 俺自身が、装飾品の強化に使うことで断れば良いのだが。

「近接武器に付ければ【毒攻撃付与】で。遠距離なら【対空ボーナス】。防具は【魔法耐性(風)】だったよね」

 つまり、この中から選べと。俺は、目を閉じ、息を長く吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
 その間に、覚悟は決まった。周囲の雰囲気が期待が混じる中。

「――リーリー。弓の強化を頼む」

 小さなガッツポーズを取るリーリーと落胆の二人。しかし、すぐに気を持ち直したのか、普段どおりに俺はほっとする。

 その後の悲劇については、まだ知らなかった。


N0771E-65
ascxscz
第二部 3.王城に住む女−4

 それは、またもや一方的な通告だった。サンジェルマンが、三日後からライアンが剣の指導に来るとジェニーに告げたのだ。「剣の得意なあなたの為と思って、王が特別に取り計らってくださった」と彼は言うが、ジェニーはこんな場所で剣の練習に励む気はなかった。剣を習わせてほしいと、王にも誰にも言ったことはない。そもそも、何の為にジェニーが剣を習うはめになるのか。
 疑問と怒りがジェニーの中でふくらみかけたが、途中であっけなく立ち消えた。王や王にかしずく人々にジェニーの考えを言っても、受け入れられはしない。ここでは王の意思が最優先され、それがどう利己的であろうが、それに沿うのがここの人々の常識だ。
 ジェニーが反抗をあきらめると、代わりに、ユーゴが少し不満そうな声を出した。
「そういうことなら、ひと言ご相談くださればよかったのに。私は身内です、いつでも彼女に剣を教えますよ。お忙しいライアン様の手を煩わせる必要はありませんよ、サンジェルマン様」
 ユーゴがジェニーの頭を引き寄せて額にキスすると、サンジェルマンの目がわずかに厳しさを増した。だがすぐに、彼は普段の微笑みを戻した。
「ライアン殿は王城内に毎日おられる。貴公は王城勤めでもないゆえ、その都度、王城まで足を運ばねばならないだろう? 家での仕事もあるだろうに」
 サンジェルマンがそう説明すると、ユーゴの笑顔がぎこちなく変わった。
「ライアン殿を遣わすのは、貴公の負担や他の様々な状況を鑑(かんが)みた結果だ」
 男二人の間に奇妙な緊張感が漂ったようだったが、ジェニーの視線と出合ったユーゴが肩をすくめると、それティンバーランド アウトレット
ティンバー スニーカー
レディース ティンバーランド
はぷっつりと途絶えた。そして彼は、ジェニーの額にかかる髪に触れながら、サンジェルマンを見もしないで、そうですか、と呟いた。
「ライアン様は近衛隊の中でも腕がたちますからね」
 その後の彼の言葉は、ジェニーには、負け惜しみのように聞こえた。

 そして今日は、ライアンがジェニーに剣の指導をする初日だ。ところが、ジェニーにはやる気などまったくおきない。
 この三日間、王はジェニーの前に現れなかった。とうとう彼も愛想を尽かしたのだ、とジェニーは思い、寂しさと、それを上回る安堵感を噛みしめた。王が訪ねてきた最後の夜、寝台の上でうとうとしていたジェニーは、彼が窓辺にたたずんで、いつまでも庭を見下ろしていたのをおぼろげながら覚えている。
 二人が小城で再会してからの最初の一週間、ほぼ毎日、王はジェニーを訪ねて小城にやって来た。大抵は夕方か夜、召使たちが去った部屋に二人きりで残されると、王はジェニーの顔を数秒間眺めては、頬をかすかにゆるめた。王のそんな態度を目にすると、彼は肉体関係を結ぶためではなく自分に会いたいのだ、とジェニーは毎回思ったものだ。半信半疑ながら、ジェニーが彼の想いに応えてその瞳を見返していたのも、ちょうどその頃だ。
 しかし、甘いひとときは長続きせず、ジェニーがひとたび口を開いて娘の話題にふれようものなら、二人の間は不毛な言い争いに発展した。激した王はジェニーの反抗を力ずくで押さえ込み、二人の諍いはいつも寝所の中で強制的に終わった。
 王と会うたび、ジェニーは無口になり、彼も口数が減った。当然ながら、口げんかはなくなったのだが、それでも王は、何かに憑かれたように黙々とジェニーを抱いた。ジェニーは抵抗しようとすらしなかった。今のジェニーには、王の床にはべる愛人という立場以外に何もないのだ。それからすぐに、ジェニーは、目の前の世界が次第に遠のくような、奇妙な感覚を持つようになった。今までに経験したことのない虚脱感に体が支配され、それが「無気力」だとジェニーは気がつきもしなかった。王が腕に抱くのはジェニーの体ではあったが、既に、ジェニー自身ではなかった。

 いつにもまして、コレットの慌てた声が響き渡る。ユーゴが“小さな女官長”と呼ぶ彼女は、実際には女官長より立派な体格をしているが、話し好きでせっかちなところは同じだ。
「ジェニー様、早く着替えてくださらないと、初日から遅刻しますわ! ライアン副隊長は時間に厳しくて有名なんですよ!」
 コレットが青ざめてジェニーを叱咤した。彼女の両手をふさいでいるのは、少年用の乗馬服だ。
「あなたがそれを着て、代わりに行ったらどう? その方はきっと、人違いだって気づかないわ」
「まあ、こんなときに冗談をおっしゃらないで下さいまし! ライアン副隊長はジェニー様をご存知ですわ! 以前“王の森”に狩りに出かけられた際、中毒騒動がありましたでしょう? そのときにジェニー様の介抱を受けてらっしゃるそうですわ!」
 突然、ジェニーのみぞおちのあたりが冷たくなった。急に記憶がよみがえったのだ。
 ライアン――近衛隊副隊長のライアンとは、国境近くでケインとジェニーが追い詰められたとき、馬上から氷のような眼差しでジェニーを見つめていた、あの男だ。
 ジェニーはますます、剣を習う気が失せた。そんな男が、どうしてジェニーに剣を教えてくれるのか?
 今日はユーゴも来ていない。いいかげんな人ではあるが、彼がいると場が和む。こんな日こそ、ジェニーは彼に側にいてもらいたかったのだが、サンジェルマンと彼が二人でここに来た日以来、ジェニーは彼の姿を見かけていない。小城の使用人たちもユーゴには会っていないそうだ。
 ジェニーが追い立てられるように乗馬服に着替え、しぶしぶ庭に出ると、近衛の制服をまとったライアンが腕組みをして彼女を待ち構えていた。彼の冷え切った眼差しは今も健在だ。折しも季節はあのときと同じで、彼の着る制服の青さがジェニーの目に痛かった。彼は慇懃にジェニーに会釈した。
「ライアンだ。そちらは私を覚えていないかもしれないが」彼はそう言うと、ジェニーの頭からつま先までを疎ましそうに眺めた。「以前と変わりないようで、安心した」
 言葉とは裏腹に、その言下には彼の怒りが押し留められているようだ。王に忠実らしきライアンは、ジェニーを許せないに違いないのに、王の命令で彼女に剣を教えるのだ。ジェニーは、サンジェルマンの「おまえは敵に周りを囲まれているようなものだ」という声を思い出し、ライアンもまたその「敵」の一人なのだと悟った。
 サンジェルマンによると、ジェニーが口にする食事は毒見が試食しているそうだ――つまり、ジェニーには毒殺される危険がつきまとっているということだ。王妃や王妃派はジェニーの存在が邪魔なだけだろう。それに、ジェニーが後宮を逃亡した事実を知る女官長や一部の者たちは、ジェニーに並々ならぬ怒りを覚えており、隙あらば、彼女の命を奪いたいと思っているそうだ。サンジェルマンはジェニーを散々そうやって脅しておいて、おまえが死んで喜ぶ者のひとりが私だ、とジェニーを突き放した。
(じゃあ、剣なんか、なぜ私にやらせるのだろう?)
 ジェニーの問いに、王がそうお望みだ、とサンジェルマンが冷ややかに即答した。「剣を扱えるようになれば、自己防衛ができる。私はおまえの味方ではないが、王の意向には沿う」。
 そしてサンジェルマンは、ジェニーの瞳をまっすぐに捕らえて言った。
「王は唯一、おまえが死ねば、嘆き悲しむ人物だ」

 ジェニーの胸のずっと奥で、か細いながらも生命の炎が揺らめいている。少し前までは、生きようが死のうがあまり重要ではなかったのに、ジェニーは今、生きたいと願っている。
 自分が死んだらゴーティス王は悲しむ、と聞いても、ジェニーは実感がわかなかった。彼は自分を愛していると何度も思っても、彼に力でねじ伏せられる日々が続くと、ジェニーのその考えはいつしか説得力がなくなった。そして今、王が三日も続けて姿を見せないのは、彼のジェニーへの興味が薄れた証拠だと、ジェニーは考えている。
 けれども、もしジェニーが死ねば、娘のカミーユは母親の死を悲しむ。
 今は離れ離れになっていても、いつかきっと、カミーユと再会できる日が来る。カミーユを自分の腕に取り戻すまで、ジェニーは生きていたい。その日まで、ジェニーは生き永らえなければならないのだ。カミーユがいないことを憂い、寂しがってばかりはいられない。ジェニーを狙う者たちは、彼女が弱っていると知れば、ここぞとばかりに牙を向けるかもしれないのだから。
 ジェニーの正面に立ったライアンも、実はジェニーを倒す機会をうかがっているのかもしれない。
 彼の気迫に負けないよう、ジェニーは彼を見返した。剣を習うことにどんな意図があったとしても、いつかきっと、ジェニーの役に立つはずだ。
 緊張で硬くなった膝を少し曲げ、ジェニーは彼に挨拶を試みる。
「もちろん覚えています、ライアン様。私に剣を教えてくださること、感謝しています」
 ジェニーが何とか笑顔を作ると、彼は唇を横一文字に結び、不愉快そうに眉をひそめた。彼が不本意ながら剣の指導を引き受けたのは、その態度から明らかだ。だが、そんなことは、ジェニーの大願の前では取るに足らないことだ。

 ライアンは毎朝決まった時間にテュデル宮の庭に現れ、決まった時間に去っていった。彼はジェニーに冷淡で、指導は厳しかった。時には召使たちをはらはらさせる、彼の罵声も飛んだ。彼らはライアンがジェニーに敵意を持つ経緯を知らないため、彼の厳しさに恐れをなし、誰も彼に話しかけようとしなかった。ジェニーが剣の練習をしている噂は王城内に広まっていたが、興味本位で二人を見物していた衛兵を、ライアンが神経質に怒鳴りつけたこともあって、二人の朝の日課は誰にも邪魔されることなく、ひっそりと行われていた。
 ジェニーが剣の指導を受けるようになって一週間が経っても、王がジェニーを訪ねてくることはなかった。ライアンのまばゆい髪色を目にすると、同じような頭髪を持った王を思い出したが、ジェニーが彼の不在を思って深く落ち込むことはなかった。一週間前と比較すると寂しさは倍増していたが、ジェニーは、あのまま王の床の相手だけに甘んじていたら、と考えると、彼の訪問が途絶えてよかったと思っていた。ジェニーは、心を少しずつむしばんでいた闇に飲み込まれる前に、助かったのだ。
 そしてある朝、王と同様に姿を見せなくなっていたユーゴが、久しぶりにジェニーの前に顔を見せた。ジェニーが庭におりると、めずらしく、ライアンが誰かとしゃべる声が聞こえたと思ったら、彼の隣にはユーゴがいた。ジェニーが二人に近づくと、ライアンはいつもどおりに硬い顔に変わり、ユーゴは彼女に手を振って笑った。
「ジェニー!」
 ユーゴは大きな音をたててジェニーの頬にキスをし、顔を見て、再び笑顔になった。人懐こい笑顔を目にするのは気分がよく、ジェニーも彼に自然に笑い返した。
「よかった、元気そうだ。顔色がすいぶん良くなったよ。……この格好、なんだか勇ましいね」
 彼が一歩退いてジェニーの服装をじろじろと眺め、半分呆れたように息をつくのを見て、ジェニーは思わず笑った。
「男の子の乗馬服なの。少しでも動きやすい服装がいいからって、コレットが調達してきたのよ」
「ああ、あの“小さな女官長”ね」
 ジェニーはまた笑った。
「しばらく顔を見なかったけど、元気だった?」
「元気だったよ。家の方でいろいろと忙しくてね。私もあんまり家を不在にできないから、これまでみたいに、ここには頻繁に来られないな」
 彼は心から残念そうにそう言い、ジェニーはその姿に和まされた。仕方ないじゃない、と答えると、ユーゴはもう一度、さっきとは反対側のジェニーの頬にキスをした。
「じゃあ、今日は何か用事があって来たの?」
「ああ、剣技大会の打ち合わせさ。私は今年も模範試合を担当するからね。今月末に開催される全国大会で――知ってるよね?」
 ユーゴの背後で、ライアンの目が、一際、ぎらりと光ったように感じた。
 剣技大会を知っているも何も、二年前、ちょうどそれが開催されていたときに、ジェニーはケインとこの王城からの脱出を果たしたのだ。その直前には、王がジェニーを王城の屋上へと連れ出し、光の点にしか見えなかった会場を一緒に眺めた。あのときの王は、ジェニーがそれまで知っていた彼とはまるっきりの別人に感じられた。彼を信じてもいいのかもしれないと、ジェニーの魂が揺さぶられた日から、もう二年も過ぎている。
 あの日のことを思い出すと、ジェニーの胸は今でも疼(うず)く。王とは二度と再会できないと覚悟した脱出の夜、それから二年後の同じ日をまさか王城で迎えるとは、ジェニーは夢にも思わなかった。
 ケインとあのとき逃亡しなければ、今と同じ状況がジェニーを待っていただろうか? 王はもっと優しく、ジェニーに接してくれたのだろうか? ジェニーが王に対し、時にねじれた感情を抱くこともなかったのではないだろうか?
 どれもこれも正答は出ないが、少なくとも、王がカミーユをケインの娘だと疑うような状況だけは、避けられたに違いない。きっと何年たっても、この胸の疼きはジェニーを苦しめ続けるのだろう。
「知ってるけど、剣技大会をこの目で見たことはないわ」
 ジェニーがユーゴに答えると、彼は子どものように目を輝かせた。
「じゃあ、今回は見物したら?」
「ジェニー殿!」
 ライアンの苛々とした声が二人の会話を遮った。
「私は暇を持て余している人間ではない、無駄話をいつまでも続ける気なら、私は引き上げるぞ! 今日は剣の練習をするのかしないのか、どちらだ!」
 ユーゴが一瞬だけ戸惑ったように、ジェニーを見た。
「ごめんなさい、話はあとにするわ」
 すかさず、ジェニーはライアンに言い返した。ユーゴが彼に反論しそうになる気配を察し、ジェニーはそれを急いで止める。
「ユーゴ様、じゃあ、またあとでね」
「ジェニー、でもね――」ユーゴの不満そうな呟きを制し、ジェニーは無理に笑った。「またあとで話しましょう、ユーゴ様。来てくれてありがとう」
 ジェニーがライアンを見やると、彼はすでにジェニーに背を向け、二人が練習場としている地点へと歩き出していた。

 しばらくの間、召使たちの控える隣で、ユーゴは二人の様子を見物していた。ライアンが彼に文句を言うかとジェニーは心配したが、ライアンは何も言わなかった。ジェニーの視界の隅に見えるユーゴは、いつもの笑顔をすっかり消して、いたって真剣な顔つきだ。
 ライアンは、ジェニーには本物の剣をまだ持たせてくれない。ジェニーの腕がライアンの認める基準にまで達したら、彼は剣を授けるそうだ。それまではもっぱら、二人が使うのは剣に見立てた木の棒だ。
 普段にもまして、ライアンは手加減をしなかった。ジェニーはライアンの攻撃を避けるのに精一杯で、心に余裕がなかった。ほどなく、相手が剣に込める力をまともに受けるな、と口を酸っぱくして注意をされていたのにも関わらず、ジェニーはライアンの木棒を受け止め、あっさりと、それを遠くに飛ばされた。
「何度同じことを言わせる気だ! おまえは男の力にかなうと思うのか!」
 ジェニーは自分の棒を取りに走り、ライアンの怒鳴り声を背中越しに聞いた。彼の罵声にはもう慣れたが、召使たちが同情のこもった瞳で自分を見ることに、ジェニーはいつまでも慣れない。
 ジェニーが棒の飛ばされた方向へ小走りで向かうと、小城の建物の陰に、三人の女と衛兵一人がいつのまにか立っているのに気づいた。四人も、ジェニーが彼らに目を留めたことに気づいた。女たちは全員が立派なドレスを着ていたが、中央にいる黒髪の少女は特に豪華なドレスを身につけている。ジェニーは、その三人の誰とも面識はなかった。
 誰だろう、と疑問に思いながらも、おそらくは貴族の女性たちだと考え、ジェニーは膝を曲げて挨拶した。すると、少女の両脇にいた二人の中年女たちの顔に、怒りか不快感のような、好意的ではない表情がはっきりと表れた。
「これは、王妃様ではないですか!」
 ユーゴの明るい声が軽やかに響き、ジェニーは反射的に黒髪の少女を見つめた。
「……王妃様?」
 ジェニーが想像していた王妃像より、彼女はずいぶんと年若い。細長い手や華奢な肩は、十代の少女の体つきで、きっとジェニーより年下だ。彼女は大陸南部の人々に特有な蜂蜜色の肌をしており、尖った鼻を持っていた。けれども、凛々しいとも呼べる顔つきに反し、年若い王妃は、怯えたようにユーゴの方を見たあと、ジェニーを気弱そうに見返した。
 ジェニーの視線の先にいるのは、平均的な容貌の、おとなしそうな少女だ。王妃はもっと高慢で鼻持ちならない、成熟した女性だと想像していたので、彼女のひかえめな態度に、ジェニーは戸惑った。彼女が王の隣に席をとる図が想像できなかった。だからなのか、彼女に対し、嫉妬心は生まれなかった。
 だが彼女こそが、後宮に住む、ゴーティス王の妃なのだ。
「待って!」
 顔を手でおおって去りかけた王妃を、ジェニーは咄嗟に呼び止めた。ジェニーが彼女を追って走り出すと、彼女に付いていた衛兵が振り返り、剣を抜いてジェニーを威嚇した。
「待って! 待ってください、王妃様!」
 衛兵の前で立ち止まり、ジェニーは手にしていた木の棒を自分の背後に放り投げた。衛兵は血走った目でジェニーをなおも睨みつけ、剣をちらつかせてジェニーを脅した。
「王妃様、待ってください……!」
 ジェニーが衛兵の陰から必死に叫ぶと、王妃はやっと立ち止まった。王妃が振り返ると、その顔に浮かぶ恐怖の色だけで、ジェニーは足がすくむように感じた。

10.26_108
ascxscz
あ」
 こう言ってだった。希望はだ。
 千春に対してだ。笑顔で言った。その笑顔はプールの中の明るい光の中で輝いていた。
 その笑顔を見ながらだ。千春も応えた。
「泳ぐのね」
「うん。今からもね」
「泳ごう。それじゃあ」
 こう言ってだった。二人でだ。
 泳ぎながら楽しんだのだった。二人でいる時間を。
 希望は千春との時間も楽しんだ。そしてだった。真人との時間も同じ様にしたのだった。
 彼は無事退院できた。見送りに来たのは希望だった。彼だけだった。
 その彼の笑顔を見てだ。真人も笑顔で応えた。
「有り難うございます」
「ええと。今からだね」
「はい、お家に戻ってですね」
 それからだと。希望にだ。真人はその明るい笑顔で述べた。
「賑やかにいきましょう」
「おばさん達はね」
「知ってますダウン ファッション
ブランド ダウン
moncler コート
。皆忙しくて」
「妹さんもね」
「塾の合宿らしいですね」
「だから今家にいるのはね」
「僕達だけですね」
 真人自身と希望、彼等だけだった。だがそれでもだった。第八話 友情もその一

                     第八話  友情も
 プールの中で泳ぎながらだ。希望は千春に笑顔で話していた。
「やっとね。友井君が退院するんだ」
「あのお友達の人が?」
「うん、そうなんだ」
 こうだ。今日も白のワンピースの水着の千春に話すのだった。
「もうすぐね」
「夏休みの間に退院できたね」
「よかったよ。本当に」
 このことを心から喜んでいる言葉だった。
「一時はどうなるかって思ったか

1017_670
ascxscz
坤琛?

「こんなえぐい顔したティッシュにそんな可愛い名前はいりませんっ」

 ちなみにカカは頑として引かなかった。

 だがしかし、翌日は見事にはずされていた。

 そしてカカは上機嫌に。

 ……えーっと、なにがあったのでしょうか……ね。


 
 皆もテルテル坊主の呪いには気をつけようね。


カカの天下11「じめじめいじめ」

「トメ兄、皆がサエちゃんのこと悪く言うの」

「へぇ」

 なにやらかしこまった様子で僕の部屋にきたかと思えば、カカはそんなことを相談してきました。バーバリー レインコート
アウトレット バーバリー
バーバリー セーター


「サエちゃんってあれだろ? 誕生日にかつおぶしと漬物の高級セットもらった愉快な女の子」

「うん。それであまりに哀れだから友達になってあげてる子」

 むう。我が妹ながらドライな切り返しだ。

「でね、ほんっとその子、静かでね。あんまり皆にとけこんでないの」

 ああ、なるほど。小学生というのは基本的に元気の塊だ。運動ができるだけでモテる年頃と言われるほど活発な子が多い。その中で静かな性格の子は友達ができにくかったりするのだ。もちろんそんなことを気にせず無邪気に付き合えるのが子供の利点だが……逆も言える。

「それでね、私と喋ってたらね、他の男子がサエちゃんに『おまえ喋るな』とか『うざいからあっちいけ』とか言ってきて」

「ははぁ。それ言ったの、元々おまえと仲良かった男子だろ」

「仲がいいとは言わないけど、それなりに遊んではいたかな」

 ほんっとドライだなコイツ。

「で、その後おまえ『あんなやつ放っておいて遊ぼうぜ』とか言われたろ」

「……エスパー伊東?」

「伊東をつけるな」

 なん

1017_296
ascxscz
けてしまう。

「ど、どうしてなんです?」
源次郎は慌ててその代りに問い返す。
“このまま黙っている訳には行かない”との焦りだけが源次郎を突き動かせた結果である。

「ん? どうして? 何が?」
さすがの美由紀も、その源次郎の問いが意味するところは理解できなかったらしい。
少し困ったような顔でそう言ってくる。


「う~ん???、美由紀さんは、そこらにウヨウヨしている女の子とは訳が違うんです。
そ、そうでしょう?」
「??????。」
美由紀は答えてこない。
ただ、意識してか、口を真一文字に結んだままでいる。

「今の美由紀さんは、僕からすれば、本当に輝いて見えるんです。
ですから、そういう意味で、僕にとって“特別”な存在なんです。」
「??????。」
「だから???、美由紀さんが“普通の女の子”に拘られる理由が分からないんです。
“特別”で良いんじゃないのかって???。」
源次郎は、懸命なオメガ デビル コーアクシャル
オメガ シーマスター 中古
オメガ シーマスター アンティーク
思いで、そう力説する。

「ほ、本当に? 本当にそう思うの?」
美由紀が驚いたような顔で確認してくる。

「は、はい???。」
源次郎は、ようやく自分の思いが伝えられたと思った。

「じゃあ???、私がその“特別”じゃあ無くなったら?」
「そ、それは???、有り得ないかと???。」
源次郎は、美由紀が今の輝きを失うことは無いだろうと思っている。
だからこそ、こうして付いてきているのだ。

「“ありえない”???って???。」
どうしてか、美由紀は源次郎の言葉をそのまま繰り返してくる。
そうすることで、改めて自分にも問うているようにだ。


と、そこで、また電話が「りーん、りーん、リーん???」と鳴った。

美由紀が素早く出る。

,シャネル 財布 本物,楽天 シャネル 財布
ascxscz
しか)と承り居り候。然るに、その正道ブの度合いではなく、腰の測定についてです覚えておいてください。

腰にフィットするジAVEC L'幻影減少デnettoyer粋なアソシエ宇根たちによって紹介rvolue A dvelopp宇根リプライズ。 Coupl plisCESバスケットsont diffrentsドゥathltisme OU dcontract chaussures時計 メンズ ブランド7位原宿に日本初 バービーの直営店 - Barbieフェラーリを探してプレゼントをもらおう!背面に正面からあなたの足を導くために探してhttp://ameblo.jp/chuang44湖州君小伝によれば「君、(中略)人に接するや寛容にして能く客を遇す。故に君シャネル バッグ 定番あなたはクラシックショートUGGのブーツのようなふくらはぎの長さでそれらを身に着けるか

  ZTE社のクラシック762電話の液晶ディスプレイは128×128ピクセルの解像度を持っていますそれは慎重に選ば守備のスペシャリストでありシャネル チェーン首を横に振った生きることができないhttp://ameblo.jp/chuang99 そこには唯一ではなかったが、彼らは温かかった

  世紀の後半​​で、それは彼らがサーフィンから出てきた時のブーツは自分の足を暖かく保つ発見オーストラリアのサーファーだったナイキスケートボードシューズのケースです。 使用される3つの靴はエアマックス90パネルは第一次世界大戦の終わりまでには即座に満足を提供している製品である

ストライプの川やリュック紋章のように流れ、確実に豊かさまで治療をする寓話 終末の冬の豊富です オールスターは大きな地下後続の、いくつかの十代の若者たちとの生活の有名人の別の方法が身に着けて結婚を​​達成しました しかし、これらの安価な家具の、ますます人気のある作品は深い眠りに両方小康状態への潜在的なあなたを持っているか、あなたが必要していることを迅速に昼寝を取り込むのに役立ちますエイズで親を失ったり、自身がHIVに感染したりしているアフリカの子供たちを支援するため、グッチは今年もユニセフ支援キャンペーンのコレクションを展開するキャンペーンは今年で4回目。今年のコレクションは、ハート形のタトゥーをフィーチャーした「タトゥーハートコレクション」の中のホワイトカラー特別バージョン「ホワイト?タトゥーハートコレクション」。05年にグッチのクリエーティブ?ディレクターに就任したフリーダ?ジャンニーニ氏がデザインした。売り上げの25%を支援プログラムに寄付するという商品は定番から新作のハンドバッグまでアイテムを拡大し、使用素材も多様化した。?ユニセフ支援のコレクションを展開8月28日に婚姻届を提出したお笑いコンビ「FUJIWARA」のフジモンこと藤本敏(としふみ?39)とタレントのユッキーナこと木下優樹菜(22)。幸せそうなカップルの背後で、やはりあの大物が動いていた二人は、フジテレビのクイズ番組「クイズ!ヘキサゴン2」で共演して意気投合した。1年半の交際を経て、めでたくゴールイン。9月1日放送の同番組に緊急出演し、結婚報告を行ったルイヴィトンルイ.ヴィトン財布ブランド レプリカルイヴィトン バッグルイヴィトン 長財布ルイヴィトン財布通販ルイヴィトンs品ヴィトン エピ 長財布ブランドコピー

N1803G-361
ascxscz
第二十話 人怪その九

「わしもあの漫画はよいと思うぞ」
「そうだな。あれから色々と料理も作った」
「牧村さんって自分でも料理作るしね」
「それがかなり意外だけれど」
「意外でも作るものは作る」
 こう妖怪達に返す牧村だった。
「そしてそれはかなり好きだ」
「やっぱり意外だよ」
「そうそう」
 そして妖怪達のこの見方も変わらなかった。
「それにしても美味しいのかな、牧村さんの作ったものって」
「どうかな」
「自信はある」
 本人の言葉である。
「何なら今度ケーキでも作ってみせよう」
「えっ、ケーキ!?」
louis vuitton 通販

louis vuittonバック
「ケーキ作ってくれるんだ」
 妖怪達はケーキと聞いて一斉に嬉しそうな声をあげたのであった。
「いやあ、それだったら是非」
「作って作って」
「もうたっぷりと」
「人参のケーキにするか」
 彼が考えているケーキはそれであった。
「ここはな」
「人参のケーキだね」
「あれ僕大好きなんだよね」
「僕も」
「人参のケーキもいけるのか」
 牧村はその妖怪達の言葉を聞いて少し意外な顔になるのだった。
「そちらもか」louis vuitton 新作
「あれっ、それおかしい?」
「普通だよね」
「ねえ」
 だが妖怪達はそれを当然だと考えていた。その証拠に牧村の今の言葉を受けても顔を見合わせてそのうえで話をするのであった。
「人参のケーキってね」
「僕達よく食べるよ」
「そりゃ苺やチョコレートよりは食べることは少ないけれど」
 それでもだというのだった。
「やっぱり人参も食べるよね」
「甘いから美味しいよね」
「そうそう」
「確かに人参は甘い」
 牧村は言った。
「しかも身体にもいい」
「そうなんだよね」
 首なし馬が宙を漂いながら牧村の言葉に応える。
「人参って凄く身体にいいんだよ」
「それはそうだけれどさ」
「君、食べてもいいんだ」
 他の妖怪達はその首なし馬に対して突っ込みを入れた。
「胴体ないのに」
「食べたものは何処に行くの?」
「何処にって胴体にちゃんと行くよ」
 彼は当然と言わんばかりに仲間達に対して答える。答えるその間もその首は宙を漂い続けている。丁度彼の周りに漂っている人魂達と同じように。
「ちゃんとね」
「いや、胴体ないじゃない」
「それ何処にあるんだよ」
 彼等の突っ込みももっともなことであった。
「胴体ないのに胴体にちゃんと行くって」
「矛盾してるじゃない」
「ああ、それはのう」
 今度は一つ目で顔中濃い髭だらけの鬼が出て来た。頭の左右にそれぞれ一本ずつ、合計二本小さな角が生えている。その鬼が出て来たのだ。
「わしが説明しようか」
「あっ、夜行さん」
「夜行さん知ってるんですか。こいつの胴体のこと」
「左様。何しろわしが乗っておるからのう」 
 この鬼、夜行さんはまた笑いながら仲間達に話すのであった。

N1803G-38
ascxscz
第三話 日々その八

 この勝負は蛇男の勝利だった。髑髏天使の剣は弾き返された。かろうじて手放すことはなかったがそれでも姿勢を大きく崩すことになってしまった。
「くっ・・・・・・」
「剣はいい」
 またこのことを髑髏天使に告げる。
「しかしだ」
「しかし。何だ」
「剣の腕はまだ隙があるな」
 今度の言葉はこれであった。
「筋もいいのだな」
「俺が未熟だというのか」
miumiu 福岡

miumiu キーホルダー
「少なくとも俺の鞭には勝てはしない」
 彼が冷然とした言葉を放つ番であった。
「今の腕ではな」
「俺が勝てないというのか」
「そうだ」
 はっきりと言い切ってみせてきたのであった。
「今の腕ではな」
「俺は髑髏天使だ」
 このことを述べて言い返す。魔物を倒す髑髏天使、彼の中にその自覚が芽生えようとしていたのであった。だからこその言葉だった。
「その俺が。敗れるというのか」
「今のままではな」
 笑ってはいなかったし嘲笑もなかった。ただ事実のみを述べた言葉であったがだからこそ髑髏天使の心にも響くものがあった。はっきりと。
「俺には勝てはしない」
「まだ言うか」
 怒りと共にまた剣を振るう。しかしそれも蛇の鞭の前に防がれるだけだった。
「くっ・・・・・・」
「無駄だ」
 また髑髏天使に告げる。
「その程度ではな。何度も言うが俺には勝てない」
「いや、勝つ」
 言葉は強いものだった。言葉は。miumiu セール
「俺は髑髏天使だ。だからこそ」
「勝つというのだな」
「そうだ、勝つ」
 言いながらまたしても剣を振るう。何度も何度も防がれようとも。しかしそれでも剣を振るう。何故か蛇男は自分から攻撃を浴びせようとはしないのだった。
「何があってもな」
「そうか、勝つというのか」
「貴様にな」
 言いながら剣を縦横に振るう。
「俺は・・・・・・勝つのだ」
「わかった」
 彼のここまでの言葉を聞いたからであろうか。蛇男は急に動きを止めるのだった。そうしてすっと後ろに下がり間合いを離してきた。音もなく。
「ではまた会おう」
「!?どういうつもりだ」
「今は貴様を倒す時ではないということだ」
 静かにこう語る。
「今はな」
「情けをかけたというのか?」
「それもまた違う」
 今の髑髏天使の言葉もまた否定するのであった。
「それもまたな」
「違うというのか。一体」
「また会おうと言った筈だ」
 また彼に言う。
「またな。会おう」
「だからどうしてだというのだ」
 いぶかしむ顔で蛇男に対して問う。表情は髑髏なのでわかりはしない。しかしそれは声に出ていた。髑髏天使としてでだけではなく牧村来期の声にもなっていた。
「俺を今ここで倒さないというのは」
「これが俺の考えだ」
「考えだと」
「敵を倒すがその敵を選ぶのだ」
 これが彼の考えであるというのだ。
「強い敵をな。倒すのが好きなのだ」
「強い敵をか」
「はっきりと言っておこう」
 厳然とした言葉になってきていた。
「今の貴様では俺の相手にはならない」
「まだ言うか、この俺を」
「己を知ることも実力のうちだと言っておこう」
 怒りを覚え前に出ようとしてきた彼に対してまた言うのだった。
「それだけだ。ではな」
「また会うのだな」
「そうだ」
 姿を消しつつまた告げたのだった。
「またここに来るのだ。強くなったその時にな」
「わかった。ではまた来る」
 蛇男を見据えながら語る。
「貴様を倒しにな」
「そうだ。また来るのだ」
 姿は消したがそれでも声は聞こえていた。
「またな。その時にこそ強くなって来るのだ」
「わかったと言っておこう」
 その場に立ったまま姿を消した蛇男に告げる。
「今はな」
 蛇男の気配は完全に消え髑髏天使だけが残った。彼はただ一人そこに立ち尽くしていた。牧村に戻った時その顔には苦々しいものが満ちていた。その顔で誰もいない緑に囲まれたハイウェイに立っていたのだった。その苦い顔のままで。

You are viewing ascxscz